ディベートとは

「ディベート」という言葉を聞いて、皆さんはどういうものを思い浮かべるでしょう。
みんなで輪になって一緒に話し合うこと? それとも、言いたい放題の果てしない言い争い?
なんとなく、議論をすることなんだな、とわかっていても、しっかりとしたイメージを持っている人は、意外に少ないかもしれません。

一般的な定義では、ディベートとは、

「ある特定のテーマの是非について、2グループの話し手が、賛成・反対の立場に別れて、第三者を説得する形で議論を行うこと」

であるとされています。

たとえば、「日本は高速道路の建設をやめるべきだ」というテーマを与えられたら、聞き手に対し、賛成派はそれによっていかに素晴らしいことが起こるのかを訴え、逆に反対派はそれによっていかに恐ろしい問題がおこるのかを訴えるのです。

こうした形の議論は、実社会でもひんぱんに行われており、たとえばアメリカ大統領選挙における候補者の公開討論や、裁判での検察側・弁護側の応酬などは、この典型的な例だといえます。

私たちNADEが普及につとめている教室ディベートとは、その中でも特に教育的効果を重視した、ジャッジが勝敗を決めるゲーム形式のものです。
公平を期すため、実際の試合では、賛成側・反対側の割り振りはランダムで決められます。

さらに、話す順番・制限時間も細かくルールで定められており、原則として一人の人間が話している間は、他の人間が発言することはできません。

このスタイルの中では、選手は自分が賛成・反対どちらの立場になるのか、試合の直前までわかりません。
従って、試合に向けて準備する過程では、選手は自分の個人的な主義主張をいったん脇において、賛成派・反対派双方の言い分を慎重に考慮しながら、もっと客観的な視点から、話し合うテーマと向き合うことになります。

また、ジャッジの説得が目的となるために、試合の中では、きちんと理由・筋道をつけて自分たちの主張を正確に相手に伝え、納得してもらうことが求められます。
場合によっては論文や文献を調べ、専門家の発言を引用することも有効でしょう。

チームを組んで試合をする場合には、互いに意思疎通をはかり、主張に一貫性を持たせることも大切な要素となります。

こうした一連の議論の過程を通じて、一般に以下のような能力が身に付くとされています。

  • 客観的・批判的・多角的な視点が身に付く。
  • 論理だった思考ができるようになる。
  • 自分の考えを筋道立てて、人前で堂々と主張できるようになる。
  • 情報収集/整理/処理能力が身に付く。

また、相手に勝とうと努力していく中で、ゲームの緊張感を楽しみながら、自然とこうした能力を身につけられるのも、ディベートの魅力の一つです。

もともと欧米で生まれたディベートは、その後様々な形にスタイルを変えて世界各地に普及、コミュニケーション能力の向上に貢献してきました。わが国でもこうした動きは古くから存在していたものの、残念ながらまだ他国に比べて普及率が高いとはいえない状況です。

日本には議論下手・交渉下手な人が多い、という有り難くない評価が定着していますが、ディベートをはじめとする議論の文化がしっかりと根付いていないことも、その理由の1つとしてあげられるでしょう。
この現状を打開すべく、大学生・社会人の団体が精力的な活動を行っているほか、教室ディベート連盟でも96年以降、毎年「ディベート甲子園」という中高生のための全国大会を開催しています。

こうした動きに加え、近年では学習指導要領の改訂をきっかけに教育者の間でも関心が高まり、特に国語・社会・総合学習の分野で、ディベートの手法が徐々に取り入れられつつあります。

How to Debate?

ディベートにおける目標

ディベートの試合は、肯定側の選手・否定側の選手と、試合の勝敗を決めるジャッジ(審判)の3者から成り立ちます。
ディベートの試合において、選手の最大の目的は、議論を通じて「第三者であるジャッジ(審判)を説得する」ことです。
決して、「対戦相手を言い負かす」ゲームではないということ、これをしっかり覚えておいてください。

選手とジャッジの配置

後述する質疑の時間をのぞき、すべてのスピーチは正面の論壇に立って、ジャッジの方を向いて行います。
くどいようですが、説得の対象は対戦相手ではなく、ジャッジなんだということを意識しながら話すようにしましょう。

試合の流れ

まず最初に、話し合うべき論題を決めましょう。
ディベート甲子園の場合には、毎年2月に論題が発表され、その1年間は大会全体を通じてこの1つの論題について議論を重ねていくことになります。
多くの場合、論題は日本政府の政策に関するものが選ばれます。

  • 日本は首相公選制を導入すべし。是か非か。(96年度高校論題)
  • 日本はすべての原子力発電を代替発電に切り替えるべきである。是か非か。(00年度高校論題)
  • 地方自治体は中学生以上による住民投票制度を制定すべきである。是か非か。(03年度中学論題)

この論題をもとに、選手は肯定・否定の2つに別れ、ジャッジを説得すべく交互に議論を展開することになります。
この際、どちらのチームが肯定側・否定側になるのかは、各試合の直前にランダムに決められます。
ディベートの試合は、自分の個人的な主義主張を訴える場ではない、という点に注意してください。
論題によっては、「自分は絶対にこの論題には賛成(あるいは反対)できない!」と感じることもあるかもしれません。
けれども、あえて逆の立場に立って論題を見つめ直してみることで、必ず新しい発見があるはずです。
肯定・否定双方の立場から客観的に論題を検証していくことで、ひいては自分の視点そのものを深めることにもつながるのです。

通常、論題に示された政策を採用するべきなのかどうかをジャッジに示すため、もっともわかりやすい方法として、肯定側はメリット(政策から予想される「良いこと」)を、否定側はデメリット(政策から予想される「悪いこと」)をそれぞれ提示します。

たとえば、「日本は積極的安楽死を認めるべきである」という論題なら、 メリット :末期患者の苦痛からの解放 デメリット:誤診や周囲からの圧力による、望まない安楽死の増加 といった具合です。
各チームは自分たちのメリット・デメリットを守りつつ相手の議論に対して反論・再反論を繰り返し、すべてのスピーチが終わった時点で、ジャッジがメリットとデメリットのどちらが大きく残ったのかを判断し、勝敗を決定します。

なお、ディベートには「引き分け」という判定はありません。仮にメリットとデメリットの大きさが同じだった場合、「あえてその政策を導入する意味はない」とみなされ、否定側の勝ちになります。

試合の形式

ディベートでは、ゲームとしての公平性を保つ目的から、各選手のスピーチの順番・役割・時間があらかじめ決められています。
目的によって様々なスタイルが存在しますが、特にディベート甲子園では、以下のような形式を採用しています。

  • 1チームは原則として、立論・質疑・第一反駁・第二反駁の各担当者、計4人で構成される。
  • 各スピーチでの持ち時間は、ステージごとに決められています。
    スピーチの順番は以下の通り。
    • 中学
      肯定側立論(4分)→否定側質疑(2分)→否定側立論(4分)→肯定側質疑(2分)→否定側第一反駁(3分)→肯定側第一反駁(3分)→否定側第二反駁(3分)→肯定側第二反駁(3分)
    • 高校
      肯定側立論(6分)→否定側質疑(3分)→否定側立論(6分)→肯定側質疑(3分)→否定側第一反駁(4分)→肯定側第一反駁(4分)→否定側第二反駁(4分)→肯定側第二反駁(4分)
  • 準備時間が、各スピーチの前に1分ずつ(肯定一駁・否定二駁・肯定二駁の前は2分)与えられる。 
  • 4種類のスピーチのうち、質疑だけは、直前の立論担当者に直接1対1で質問する形で進められます。
    それ以外のスピーチでは、原則として1人の選手が話している最中に、他のディベーターが発言することはできません。